IF YOU LOVE SOMEBODY
SET THEM FREE


「ねえ、アリオス、こっち、こっち!」
 アンジェリークは、零れるような笑顔を浮かべ、アリオスに手招きをする。
「チッ、しょーがねーな」
 アリオスも、左右の色の異なる不思議な瞳に温かな光を浮かべながら、彼女を見守るように後に着いてゆく。
 二人っきりになれる、たまの休日。
 いつも職務に追われる二人には、何よりも貴重で得がたい時間だ。
「ねえ、早く! おいて行っちゃうよ!」
 アンジェリークは、まるで子犬のようにはしゃぎ、スキップをしながら丘へとかけてゆく。
 誰よりも大好きな人と一緒にいるのが、何よりも楽しくて、嬉しくて、喜びを体いっぱいに現している。
「クッ、これが宇宙を統べる女王様だとはな・・・」
 アリオスは、フッと甘さの含んだ優しい微笑を浮かべ、アンジェリークの後姿を見つめる。
 彼の瞳からは、言葉にならないほどの深い愛が溢れんばかりだ。
 アリオスはアンジェリークの総てが愛しくて堪らなかった。
 女王としての慈愛の溢れた顔も、真摯な表情も。
 自分にしか見せない、あどけなさが残る表情も、艶やかな顔も・・・。
 余りも愛しすぎて、時々不安にすらなる。
 彼女がこのまま自分の傍に永遠にいてくれるかどうかを・・・。
「アリオスー!」
アンジェリークは、彼に向かって幸せそうに何度も手を振りながら、ふいに体のバランスを崩した。
「・・・きゃっ!!!!」
「アンジェリーク・・・!!!」
 アンジェリークが悲鳴とともに目の前から姿を消し、アリオスは猛スピードで彼女へと駆けてゆく。悲痛な呼び声とともに。
 アリオスが駆けつけると、小さな崖の下で、アンジェリークは倒れていた。
「・・・アンジェリーク・・・!!!」
 アリオスは、顔色を失い、そのまま崖を飛び降りる。
 銀糸の髪がふわりと浮き上がり、隙のない肉体が宙に舞う。
「アンジェリーク!」
 彼は、膝を曲げて難なく着地すると、すぐさま、アンジェリークを抱き起こす。
「アンジェ!!!」
 アリオスが苦痛に満ちた声で呼ぶと、アンジェリークはゆっくりと瞳を開ける。
「・・・アリオス・・・、足・・・、痛い〜!!」
 アンジェリークは大きな瞳に大粒の涙をいっぱい溜めて、アリオスを縋るように見つめる。
「診せてみろ」
 アリオスは、自身の動揺を抑え、アンジェリークに足を伸ばさせ崖に凭れさせると、彼女の足の前に跪く。
「どっちだ?」
「右・・・」
「ったく、ただでさえすぐ転ぶくせに、走り回るからだぜ」
「・・・ごめんなさい・・・」
 アリオスは、足を診るために、アンジェリークのスカートをたくし上げる。
 それは、アンジェリークにとってひどく恥ずかしくて、思わず目を閉じてしまう。
 アリオスは、まるで壊れ物でも扱うかのように、アンジェリークの足を丹念に触診する。                                                         「ここは?」
 アリオスの言葉にも、アンジェリークは首を横に振ることしか出来ない。
「----大丈夫だぜ? 折れても、捻じれてもいねえ」
「ありがとう・・」
「ただ、膝が擦りむいてるけどな」
 アリオスはそう云って、アンジェリークの膝に優しく唇を寄せた。
「・・・あっ・・・」
 アンジェリークは、全身に甘い戦慄が走り、じっとしていられない。胸が、飛び出してしまうほどの鼓動を感じ、眩暈がしそうだ。
 アリオスは、彼女の傷口を綺麗に舐めとると、顔を上げ、艶やかな瞳でアンジェリークを見つめる。
「ほら、消毒完了」
 彼は、ニヤリと意地悪そうに笑みを浮かべると、アンジェリークにそっと耳打ちをする。
「----続きは今夜たっぷりな?」
「----ばか・・・」
 アンジェリークは、咎めるような上目遣いの視線をアリオスに送った。



 アンジェリークの足の痛みが退くまで、二人は、崖に凭れて緑いっぱいの景色を見ていた。お互いの手を絡ませ合いながら。
 優しく、温かな光の下、木々は光に愛されたくて、一生懸命輝こうとしている。
 まるで自分とアンジェリークのようだと、アリオスは思う。
 優しく、温かな光は、アンジェリーク。光に愛されたい木は自分自身のようだ。
 時々、アリオスは不安になる。
 アンジェリークを愛する余り、その激情で彼女を縛り付けているのではないかと。
 いつか、その束縛に疲れて、彼女はどこかに行ってしまうのではないかと・・・。
 先ほども、一瞬、彼女がいなくなったと思い、気が狂いそうになった。
 考える余り、絡める手に力をこめる。
「アリオス・・・?」
 アンジェリークは心配そうに彼を覗きこむ。
 アリオスは、切なげな微笑を、フッと浮かべると、視線を宙に這わせる。
「----なぁ、おまえ、今、自由か?」
「えっ?」
 突然の彼の言葉に、アンジェリークは、息を飲んだ。
 しかし、それは一瞬のことで、アンジェリークは穏やかな微笑を浮かべると、何よりもまっすぐな瞳でアリオスを見た。
「----自由よ、今が一番」
 きっぱりとした自信のある口調だった。
「何よりも、あなたがそばにいてくれるから、私は自由でいられるもの」
「アンジェリーク・・・」
 アリオスは、愛しさがこみ上げ、彼女の頬に手を当てる。
 アンジェリークは、優しく彼の手を上から包み込む。愛しさをこめて。
「私・・・、時々不安になる・・・。私の愛が、アリオスを縛り付けていないかって・・・」
 アンジェリークは寂しげに瞳を伏せ、ひどく怯えを見せた。
 アリオスは、自分と同じ気持ちであったアンジェリ−クの心に気づかなかった自分を心の中で諌める。
 そして・・・。
「----俺だって、おまえがいるから自由でいられる・・・」
 低く深い声で呟くと、アリオスは、アンジェリークに甘い口づけを送る。
 彼女の怯えを取り除くために。
 唇が離れ、アンジェリークから切なげな溜め息が漏れる。
「アンジェリーク、覚悟しろよ? 俺が一生、束縛の自由を与えてやる」
「覚悟は出来てるわ。だって、蠍座のABの男の人って、独占欲の強くて、・・・エッチらしいから・・・」
 アリオスは、喉を鳴らして小さく笑うと、再びアンジェリークに口づける。
 深く、優しく、官能的に・・・。                                     

もしあなたが誰かを愛したときには、その愛で愛する人を自由にしてください。


コメント
祝!!アリオス「ラヴラヴ通信」キャラクターランキング1位GET!記念創作です。
本当は、最後の段落だけを書きたかったんですが、前に蛇足な甘いシーンを持って来ました。
タイトルの「IF YOU LOVE SOMEBODY SET THEM FREE」は、STINGのソロ1枚目のシングルのタイトル。
愛したら、決して束縛してはいけないとという、究極の愛の形を描いています